世の中の投資本とは一線を画す名著
”野菜が高い!””いろんなものが高くなってる!”どうなってるの!”
いつも、買い物から帰って来た妻が嘆くように言う言葉です。
つい最近までのデフレの時代であれば、生活費は将来に向けて一定額を考えておけばよかった。しかし、世界的なインフレ時代に突入した今、デフレ時代のようにうかうかしていられない時代になって来ました。
やはり、投資は避けて通れない世の中になってきたのです。
年間2%程度の物価上昇分くらいでも投資の利益によって補えれば、見通しが立とうというものです。
自分もそれほど長くはないのですが、投資信託をメインとする株式投資を続けてきて、このインフレ時代に局面して続けて来てよかったなあと思っているところです。
そんなこれまでの自分の短い投資の経験から思うのは、所詮、人間のやることは感情に左右される、よって、
”どれだけ感情に流されず、淡々と続けることの難しさ”
を感じます。
そんなことを思いながら、多くの投資家の方々がお勧めする本書を手に取って読んでみたら、その本質が書かれていたのです。
題名:サイコロジー・オブ・マネー
著者:モーガン・ハウゼル
発行:ダイヤモンド社
今までの投資本は、経済論や方法論に終始する本が多かったと思います。
しかし、本書は全く違います。投資に対する姿勢や心の置き方、考え方だけではなく、引いては人としての生き方や哲学に至るまでを教えてくれる、今までの投資本にない貴重な1冊だと思いました。
本書を読んで、心に響いた箇所とその感想を述べたいと思います。
知識より行動
冒頭にこんなことが書かれています。
経済的な成功は、何を知っているかよりも、どう振る舞うかが重要な「ソフトスキル」の問題なのだ。私はこのソフトスキルを「サイコロジー・オブ・マネー(お金の心理学)」と呼んでいる。(P8)
知識より行動だと言うことです。
自分も投資を始めようと思い始めた頃は、いろんな投資系YOUTUBEの動画から知識を得ていました。今思えばその期間が長すぎたのかもしれません。知識だけを得ても、それを実行しない限り、自分の知恵にはなりません。
それは、生き方に通じるものです。これまで、口先だけで実際何も行動しない評論家のような人々を数多く見てきました。自分はそんな人たちのようにはなりたくないと常に思ったものです。
時間はかかったものの、実際に初めて見ると世界の見方、視野が広がった気がします。
・個別の会社への興味
・世界を変えていくようなテクノロジー
・経済の仕組みや関係性
・国の情勢や関係性
などなど。すなわち、投資に関わるあらゆることに興味が湧くようになってきました。さらにそれらが自分事のように感じられるようになってきたのです。
この感情の変化は予想外のものであり、自分にとって非常に価値のある変化だったなと感じています。
本質を理解することが大事
投資の本質を理解することが大事な気がします。
大切なのは、特定の個人や事例ではなく、もっと大きなパターンに注目することなのだ。(P55)
ニュースで取り上げられるような極端な人物に注目するよりも、このような幅広い観察から導かれた教訓の方が、私たちにとって身近かつ有益になものであることが多い。(P56)
欲張ること、儲かることばかりを考えること、それではうまくいかないし、継続はできないと言うことです。
自分は、オルカン(全世界投資信託)をメインに投資しています。その理由は、”全世界の人々は、たゆまなく成長し続ける、そしてそれを信じているから”です。そんな世界の成長に期待しています。
SP500に代表される全米投資信託をお勧めする方も多いですが、今後アメリカが常にトップであり続ける保証はありません。将来インドなど人口が急増する国に逆転される可能性はあります。
今、オルカンよりもSP500の方が運用益が高いのは知っていますが、長い目で考えた時の全世界のポテンシャルを重視しています。
なので目先の利益にこだわったりは全くしていませんし、欲張ってもいないのです。それくらいのスタンスが継続することができる秘訣だとも思います。
また、この言葉は胸に刺さる言葉でした。
成功と失敗には、運とリスクが大きく影響している。だから、”何事も、見かけほど良くも悪くもない”のだ。(P58)
成功には運が、失敗にはリスクが大きく影響する。
成功しているのは、自分の力だけではなくて、周りの人の助けやその時代に生きている環境に左右されています。まさに”運よく”です。
自分の人生を振り返ってみた時、プロジェクトが成功した時は、”自分の判断が良かった””自分のコンセプトのおかげだ”と調子に乗ったものです。しかしながら、優秀な部下たちの創意工夫なくしては、ひいては彼らとの巡り合わせがなければ実現できなかったものです。それこそ、まさに運だと思います。
投資においても、同じパターンでの投資をしても、その時代時代で明らかに運用益が変わってきます。好況の状況で投資し続けた場合と、不況の状況で投資し続けた場合とでは、後者の方が安く多くの株を購入できて、その後、好況に転じた場合は多くの利益を産むことができます。これもまた運。
そんなことを理解して、傲慢にならず常に謙虚でいることが大事だと感じています。
資産形成のために重要な姿勢
倹約すること
この言葉も刺さりました。
動き続けるゴールポストを止めよ
これほど重要なスキルはないだろう。努力をして結果を手にしても、それに合わせて求める基準を上げ続けるなら、いつまでたってもさらなる結果を求め続けなければならない。「もっと多く」の金、権力、名声を手に入れたいという欲望にかられ、満足感よりも野心の方が大きくなっていく(P67)
”動き続けるゴールポストを止めよ”
こんなに、キャッチーでわかりやすく刺さる言葉をよく思いつくなあと著者に感心します。
欲望に駆られて贅沢を追求していくと、際限なく浪費して破綻してしまう。人間とはそんな生き物。なので、この言葉、人間にとって非常に重要なことだと思います。
自分の大好きな言葉、”足るを知る” に通じるものがあると思います。
またこうも書かれています。
収入ーエゴ=貯蓄
(中略)生きるために必要な物を十分に満たすレベルを超えた支出は、収入に応じて大きくなるエゴの現れだと言える。(P158)
この言葉もよく思いついたものです。
エゴの意味を考えると、他人の目を気にして賞賛や尊敬を得ようと高額品に浪費したり、過剰な自己満足のために飲食に費やしたりすることでしょう。
やはり”足るを知っていない”とも言えます。
投資をする以前に、足るを知って倹約することが非常に大事だと考えます。
謙虚であること
またこうも書かれています。
投機家はどれだけ金を払ってでも、傲慢にならないための方法を学ばなければならない。優秀な人間が失敗するのは、たいてい傲慢さが原因だ。(P103)
欲張らず、物を大事にして、ささやかなことに幸せを感じる。そんな謙虚な生き方が大事だと思いますし、投資に対する姿勢にも通じるものがあると感じています。
投資を継続するためのヒント
破滅を避け、継続できるヒント
そして、破滅を避け、継続できる方法として、以下の3つのことがありました。
1.大きなリターンを得るよりも、経済的に破綻しないことを目指す(P97)
2.あらゆる計画でもっとも重要なのは、計画通りに進まない可能性を踏まえて計画すること(P98)
3.未来に楽観的であれ(P99)
賢明な楽観主義とは、「たとえ途中で不運に見舞われたとしても、長期的に見れば物事は自分が望む方向に進むと信じること」である。
この3つが基本的な考え方として非常重要だと思います。
1.については、すなわち投資は余裕資金で行うことです。儲けようとして、失敗すれば破綻するような額まで投資しないことが重要です。
2.については、長い人生、未来を正確に予測できません。自分自身のこと、周りにいる人、日本、世界。考えただけでも予測不能です。しかし、考えられることは想定した上で計画を立て、予想外のことが起きた時に都度都度その計画をメンテナンスすることが重要だと考えます。そして、そのためにはある程度の貯金は確保しておきべきですね。
それについても、こうも書かれています。
「目的にない貯金」が最大限の価値を生む
(中略)人生では、最悪のタイミングで予期せぬ出来事が起こり得る。貯蓄は、そのリスクに対する備えなのだ。(P159)
柔軟性は確実な強みになる。(中略)そして、貯金がもたらす余裕があれば、柔軟性は高まる。(P162)
目的にない貯金を確保するためには、やはり、投資は余裕資金で行うことにつながります。
持続することの重要性
短期での利益を追求するのではなく、時間を味方につけ、複利の効果で長期での利益を追求する。そのためには持続することが重要で、投資のみならず、キャリアにも通ずるものがあると説いています。
複利は、何年、何十年もかけて成長させると最大の効果を生み出す。これはお金だけでなく、キャリアや人間関係にも言えることなのだ。
鍵を握るのは持続性だ。人間は時の経過とともに変化していく。だからこそ、人生のあらゆる局面でバランスをとることが、将来の後悔を防ぎ、投資を長く続けるうえで最善の戦略になる。
現役時代に、貯蓄、自由時間、勤務時間、家族と過ごす時間などをすべてを適度にすることを目標にすれば、極端な場合よりも、計画を継続しやすく、後悔もしにくくなる。(P224)
持続するためには、”求めすぎずバランスを取ること”。これも、投資のみならず、人間の生き方にも通ずる話です。ほどほどの考え方です。
自分は、これまで生きていきた中で、持続することの重要性と難しさを常に考えていました。
特に会社員時代、定年まで、自分が主体的にやりたいと感じる仕事をずっと続けていくにはどうしたらいいか?をずっと考えながら仕事をしていました。やりたい仕事は、モチベーション的に継続できるからです。
一つのプロジェクトを成功させたとしても、そこで終わりではありません。人生は続いていくし、その次、またその次と歩んでいかなければなりません。そんなフェーズの切り替わりに、自分の人生にイニシアチブを持って自らを歩んでいくような生き方が大事だとも考えていました。
しかしながら、それを実現するためには諦めたり、割り切ったりする必要があります。自分の場合は、他人に自分の生き方を変えられるようなことを避けたかったので、出世することを断りました。今となってはそれは自分にとってはいい選択だったと思っています。
”持続”するには、”求めすぎずバランスを取ること”と”自分の人生にイニシアチブを持つこと”が重要だなと考えます。
改めて、そんなスタンスで投資を考えていきたいと思います。
投資に対する心構え
本書には、投資へのいろんな心構えが書いてありました。
楽して報酬は得られない
短期で報酬を得ようとする姿勢をこのように表現しています。
だが、お金の神様は、代償を払わずに報酬を求める人を好まない。車を盗んで逃げ延びる者もいるだろう。だがほとんどの場合は、捕まって罰を受けることになる。投資も同じなのだ。(P233)
投資の代償は「罰金」ではなく「入場料」だと考える(P237)
お金は苦労して稼ぐものという日本人特有の考え方はあるでしょう。投資なんて、楽して利益を得ようなんて甘すぎると。
しかし、投資しているということは、自分の貯金を損失するかもしれないリスクに晒しているとも言えます。それこそが、代償と言いますか、楽して報酬を得ているわけではないということなんです。
楽して報酬は得られないと思いながら、長期投資するのが良さそうです。
バブルに踊らされない
バブルの考え方で新鮮だった表現がありました。
つまりバブルとは、投資資産の評価が上がったために起こるわけではない。バブルとは、短期的なトレーダーが増え、投資の時間軸が短くなったことの表れなのだ。(P246)
これは、目から鱗でした。確かにその通り。バブルは、熱狂しつつ短期的な視点で利益を得ようとする人々によって市場が荒らされる状態だということなんですね。
長期投資をしている自分としては、そんな状況でのバブルに踊らされず、その奥にある本質的な事象をなるだけ読んで、冷静に行動すべきだなと思います。
悲観論に左右されない
これは、痛切に感じます。
悲観主義が魅力的に感じられるのは、いくつもの理由がある。(中略)1つの理由は、「悲観的になるのは人間の本能であり、不可欠なものだから」というものだ。(中略)人は、利益よりも損失を大きなものとみなす。それは、生物が進化の過程で得た思考法である。脅威を緊急性の高いものと見なす生物は、生き延びて繁殖するチャンスに恵まれるからだ。(P262)
ネット上の記事やYOUTUBE動画で、”景気後退”や”暴落”などネガティブな言葉が踊っているとついつい見てしまいます。
そして、”損失を非常に嫌がるのは人間の本性”とよく聞きます。そういう生き物なんですね。
ということを理解した上で、長期目線で投資を続けることで、悲観論を無視できるようなメンタリティを確保したいと思います。
投資で得られる豊かさは自由
倹約や投資で得られる究極の目的について、こう表現しています。
最高の豊かさとは、毎日、目を覚ましたときに「今日も思い通りに、好きなように過ごそう」と思えることだ。(中略)それは、「思い通りの人生を送れること」だ。(中略)そしてこれこそがお金から得られる最高の配当なのだ。(P126)
これは、本当にそう思います。
自分の価値観として、これまで色々な記事で書いていますが、
”自分らしく自由に生きる”
を大事にしています。
会社員時代、できるだけ自由に生きていたとは言え、そこは会社員。完全に自分の自由にはできません。そして働くことにほとんどの時間を費やし、疲弊は避けられませんでした。
この言葉がそれを言い当てていると思います。
私たちは少額の貯金をするたびに、誰かに所有されていた自分の未来を少しずつ奪い返しているのだ。(P160)
退職した今、時間を自由にできる豊さは何者にも変えられません。そして、そこから生まれる心の余裕や豊さは、生きていることを実感できる幸せだと思います。
倹約や投資によって経済的自由と選択の自由を手に入れて、そういう実感を感じられるようになるのなら、それらが究極の目的と言ってもいいと思います。
人は、自分が主導権を握っていると感じたいのである。つまり、運転席に座りたいと思っている。だから、誰かが何かをするように仕向けられると、急に無力感を覚える。(中略)そのため、その行動そのものは好きだとしても、拒絶したり、他の行動をとろうとしたりする。(P130)
これは本当に的を得ていると思います。人は自分の人生を歩んでいきたいと考えるものです。他人に操られたり、他人の引いたレールを歩んでも、真の達成感を感じることはできません。
なので、若い人に言いたいのは、自分の人生を自らが後悔なく選択して、自分らしく歩んで欲しいと思います。
本当の富は見えない
”本物のお金持ちはユニクロを着ている”
最近、そんな話をよく聞きます。
本書には、こんな本質的なことが書かれています。これは、心に刺さりました。
金に物を言わせて高級品を買っても、本人が思っているほど他人からの尊敬や称賛は得られない。これは、簡単に理解できない人生の機微である。尊敬や称賛が目的なら、その求め方には注意しよう。馬力の大きなスポーツカーを買うより、謙虚さや優しさ、共感がある方が、多くの尊敬を集められるはずだ。(P141)
確かに、フェラーリやポルシェに乗っている人を見ても、彼らに対して尊敬の念を持つか?というと疑問ですね。自動車開発を生業としていた自分としては、確かな運転技術を持って、しっかりとそのクルマの性能を堪能できる人だとしたら、そんなクルマはふさわしいと思います。
しかしながら、本質を知らずに、ブランドだけ、自分を着飾るためだけに、それらのクルマを買っているのだとしたら、尊敬や賞賛は得られないし、得られたとしても表面的なものだと思います。
また、他人の目を気にしている時点で、自分らしい生き方ができていないとも言えますし、そんな人は、本当の富、言い換えるならば、本当の心の豊かさを得ているとは言えないと思います。
私たちは、「ウェルス(富)」と「リッチ(物質的豊かさ)」の違いを明確にしなければならない。(中略)リッチとは、現在の収入が多く、それを使って贅沢な買い物をしていることだ。(中略)だが、富(ウェルス)は目には見えない。それは使われていない収入のことだ。富とは、あとで何かを買うための、まだとられていない選択肢だ。(P147)
この定義は非常に重要だと思いました。
ウェルス、富によって得られる心の豊かさこそが、真の人生の目的なんじゃないか?
本書を読んで、そう実感しました。
最後に
本書は単なる投資本ではなく、投資の本質や姿勢、ひいては、人生や生き方にまで言及するような、本質を突いた骨のある本だと思いました。
今年から新NISAがスタートして、多くの方が株式投資を始めたと思います。そんな方に最適な一冊だと思います。
みなさん読んでもらって、自らを振り返ってみてください。