最近、サッカーを深く学びたくなってきました
以前は、浦和の試合を見ていても、チャンスが来てゴールを奪って喜んで、ピンチが来て失点して悲しむくらいでした。
しかし、最近、KMさんや島崎さんのYOUTUBEチャンネルのように、戦術的な解説を多くしてくれる方が増えました。彼らの解説のおかげで、それぞれの選手がどういう狙いでポジショニングしているのか?プレーをしているのか?とか、相手のシステムに対する噛み合わせでこんなプレーをしていたとか、そういう視点でゲームを見れるようになって、少しずつ理解できるようになってきました。そういう意味で、教えてくれている彼らには感謝感謝です。
さらにサッカーについて深く知りたいなとも思い始め、サッカー関連の本を探していたら、背表紙に「林舞輝」という文字を発見。
現在、浦和レッズのコーチ兼分析担当である彼の著書でした。どんなこと書いてあるんだろうという程度の軽い気持ちで、読んでみました。
題名:サッカーとは何か
(戦術的ピリオダイゼーションvsバルセロナ構造主義、欧州最先端をリードする二大トレーニング理論)
著者:林舞輝(現浦和レッズコーチ兼分析担当)
発行:株式会社ソル・メディア
読んでみると予想外の新発見。その中で学んだ部分、感銘した部分を紹介したいと思います。
2つの考え方が共通して大事にしている部分
「戦術的ピリオダイゼーション」と「構造化トレーニング」。
これらのちょっと舌を噛みそうな言葉。これらが主に本書が解説をする対象となります。
しかし、読み終えてみて、結局のところ、大事なところでこの2つは共通点があるなと思いました。
それは、サッカーというスポーツの本質をついた部分なんです。
「サッカー」とはどんなスポーツなのか?
サッカーとはどんなスポーツなのか?を特徴的に記述した部分がありました。
サッカーの試合における判断というものは、非常に難解かつ複雑で、大変な労力が必要になる。自分の能力、相手の能力、味方と相手の特性、ポジショニング、マークがあるかなどの状態、現状のスコア、時間帯、ホームかアウエイか、天気などの環境・・・・。このようにさまざまな無数の要素が絡み合った複雑な状況下で、選手たちは90分休むことなく瞬時に適切な判断を下し続けなければならない。そして、当然のことながら、それを続けていけば選手の思考能力・判断力は徐々に消耗し、疲弊していく。
そして頭が消耗するとどうなるか?
当然、体が疲弊した時のと同じように、適切な判断ができなくなったり、判断が遅くなったりする。つまり、ミスが起きるのだ。
(中略)
ゴール前などの本当に最高の判断能力、決断力が必要なシーンで選手たちが頭を最大限に使えるようにする。つまり、この戦術的疲労という概念を認識し、その疲労を少しでも抑えるために、地図となるゲームモデルと判断基準となるプレー原則の設定がサッカーにおいては必須事項なのである。(P67)
まさに、複雑な条件下で時事刻々の判断が必要なスポーツなんですね。そういう意味で、選手のメンタル的な疲労は相当なものだと思います。
そこからわかること
そこからわかることとしては、サッカーのトレーニングにおいて、単純にフィジカル面でのトレーニングのみをやるのではなく、メンタル面でのメンタル負荷も考慮したトレーニングでないと意味がないということです。
そのためには、サッカーに特化したトレーニングを行なって、実践で遭遇するシーンを数多く選手たちに体験させる。考えなくても、無意識にプレーできるようになるために。そのことによって試合中に選手たちが判断する頻度を減らし、疲労を低減させる。
また、サッカーに特化したトレーニングは、サッカーにおいてのフィジカル能力を向上させることができる。逆に、陸上選手の練習のようなただのランニングのトレーニングでは、全く意味がない。
これらのことは、「戦術的ピリオダイゼーション」と「構造化トレーニング」の2つの考え方が大事にしている部分だと理解しました。
戦術的ピリオダイゼーション
「戦術的ピリオダイゼーション」について、冒頭で、林氏がこう解説しています。
従来のフィジカルコンディショニングのためのピリオダイゼーションに、さらに各チームのプレー原則やゲームモデルなどの戦術的要素を組み込んだ、「意思決定」の統一による「チームシンクロ」を目指すトレーニング
また、この考え方の創始者である、ヴィトール・フラーデ氏は、こう言っています。
「戦術的ピリオダイゼーションのロジックとは「ゲームモデルとプレー原則」と「トレーニングの法則」に基づいてモルフォサイクルを作ることだ」(P80)
簡単に言うと、戦術的な観点でトレーニングの中でどのように選手たちに落とし込むか?の考え方だと言えます。
4つの戦術要素に関する言葉の定義
林氏の言う意思決定の統一によるチームシンクロ。これを実現するための戦術要素に関する以下の4つの言葉は、一般的にそれぞれ間違えられやすい言葉だといいます。
①プレーイングアイデア
監督が目指す理想のサッカー。
②ゲームモデル
監督が持つチームのビジョン。既存の選手の能力を見極めて、プレーイングアイデアを現実的なものに落とし込む。
③ゲームプラン
特定の相手チームに対し、自分たちのゲームモデルを有効に実現するもの
④プレー原則
ゲームモデルをチームと選手に落とし込むために、攻撃/守備/攻→守の切替(ネガトラ)/守→攻の切替(ポジトラ)の4つの局面で、選手が守るべき行動規範。
自分としても、本書の解説を読むまでは、全く区別できていませんでした。
浦和の場合で考えてみると、以下のように言えるのかな?と思います。
①ハイプレス・ハイライン。ポゼッションをあげて相手を圧倒する。勝つサッカーを志向。
②特に、ACL決勝までは、守備を構築を重視し、引き気味でも耐えれるチームを構築。
シーズン後半、徐々に進化させ①にゲームモデルを近づけている印象。
③相手チームを分析(ここがまさに、舞輝コーチの仕事!!)し、相手の特性を研究した上での具体的な戦略を実践している印象。(監督のコメントからもわかる)
④2人のディフェンダーが左右に開いてサイドバックを押し上げることや、4−4−2の守備時などに具体的なルールは当然あるように思われる。
浦和の戦術的な考え方が推測できるような気がしてきました。
戦術的なチーム、戦術的な選手とは?
それらの戦術要素の言葉を使って、戦術的なチームと選手について解説した部分がこちらになります。
戦術的なチームとは、明確なゲームモデルが全選手に浸透し脳内に同じ地図を持ち、全ての選手がそのゲームモデルによるプレー原則に基づいた判断とプレーが適切に行えるチーム。
戦術的な選手とは、チームのゲームモデルに基づいたプレー原則を理解した上で、それに沿ったプレーを適切に選択・判断できる選手。
そう、つまり、戦略的ピリオダイゼーションとはこれを目指しているのだ、(P44)
これを読みながら改めて思ったのは、
・浦和は戦術的なチームで、しっかりとした土台のもと構築されている
・シーズン後半に差し掛かって、マチェイ監督の戦術理解度が高まってきて、選手全員に浸透してきて、チームの成熟度・洗練度が上がってきている。(先日のガンバ戦での後半10人になった時の選手たちのプレーにそう感じました)
つまり、浦和は戦術的なチームが構築されつつあり、全員が戦術的な選手となり、チームが成熟しつつあると言えます。
そもそもピリオダイゼーションとは?
英語の意味は以下の通り。
ピリオド(区分、〜期)
→ピリオダイズ(期分けする)
→ピリオダイゼーション(期訳すること)
ピリオダイゼーションとは、年単位・月単位・週単位にそれぞれ期分けしたして、それぞれの単位でフィジカルだけでなくメンタルも考慮したトレーニングメニューを考えることと理解しました。
本書の中には、試合終了後から次の試合へ向かうまでの、週単位でのトレーニング(モルフォサイクルと呼ぶ)の紹介がありました。メンタル・フィジカル両面での1週間の過ごし方の例が書かれていて、イメージしやすかったです。
構造化トレーニング
これは、FCバルセロナのコーチであった、パコ・セイルーロがこの考え方の創始者です。
わかりやすい例えが書かれています。
構造化トレーニングをよく説明する際によく使われるのが、火と水の例えだ。火を消すには、何が必要か?身の周りで身近なもので言えば、水だろう。水の分子構造は、H2Oである。この分子構造を元子まで分解すれば、当然、水素(H)と酸素(O)だ。ところが水素と酸素は、両方とも消化するどころか、余計に燃焼させてしまう物質である。(中略)火を消すのに必要なのは、あくまでH2Oという構造だ。つまり、要素を合わせるのと「構造として捉える」のに、時には結果としてまったく逆になるほどの違いがあるのである。(P149)
サッカーは、当然ながら11人の団体競技です。個人個人の特性に優れたもの突出したものがあっても、グループ化した時点で全く機能しないことが多々起きます。
それを、選手の特性が合っていないことで諦めて放出を繰り返すか?我慢強く構造化トレーニングを行なって構造としての効能、グループとしてのパフォーマンスを得るか?があると思います。
「サッカー選手」の自己構造
構造化トレーニングが他のトレーニング理論と決定的に違うことの一つが、まず選手個人の構造化を行なったことにある。(中略)
・生体エネルギー:運動に必要な身体の生体的エネルギー
・コンディション:一般的な意味でのフィジカルコンディション
・コーディネーション:そのスポーツで必須となる専門技術や身体操作
・認知:情報を収集・理解・判断するプロセス
・社会性:対人関係やチームメイトとの関係性
・感情意欲:意志やモチベーション
・表現力:チーム内での自己表現、自己アピール
・メンタル:自分の中の全ての能力を統合させる力
(一般的なメンタルとは全く違った意味)(中略)これら8つの構造がまた相互作用しあった「サッカー選手」という複雑な構造になっている、という考え方だ。(P156〜158)
この8つの構造はよくわかりますね。コーディネーションと呼ばれる技術だけでは全くうまくいかないスポーツだと言えますね。うまいだけではプロになれない。社会性以下の4つの項目は本当に重要な項目だと思います。
育成で最も重要なのは、その選手に最も適切な「自己構造化」を行わせてあげることなのだ。(中略)ものすごく簡単に言えば、「フィジカルが弱いなら弱いなりにそれでも生きていける選手になればいい」ということだ。(P164)
育成というレベルの話ではないのですが、チームに適応するという観点で、今まさにその例となると思うのが、リンセン選手です。オランダのトップクラブ、フェイエノールトから鳴物入りで加入したものの1年間本来のパフォーマンスが出せず。それでも、マチェイ監督やコーチたちの辛抱強いトレーニングとメンタルサポートのおかげで、グループとしてのパフォーマンスを発揮できるようになってきています。
リンセン選手の考え方の変化はあったにしても、周りの選手たちとの相互理解が進んだ気がします。リンセン選手の動きをよく理解して、コンビネーションやパスが的確になってきましたし。実践でのトレーニングの充実ぶりが伺えます。
「トレーニングにおける学習は、何かを繰り返し練習することでなく、選手によってより多くの異なる経験や新しい経験をさせることだ。それが彼の脳と身体のシステムを発達させる唯一の方法だ。」
「良い選手というのは、それがたとえ全く新しい状況であっても、自分のやり方で問題を解決することができる選手だ。これができるのは、その人自身の自己構造化が、過去の多種多様な経験によって発達しているからなんだ。」(P169)
いかに実戦に近いシーンを数多く普段のトレーニングで再現できるかが、選手たちの自己構造化とチームに適合することにつながっていくんですね。
林舞輝氏について
この本を読んだ率直な感想として、林舞輝氏の人柄、優秀さ、頭の良さを知り、この人材、この頭脳を浦和レッズは絶対手放してはいけないと感じました。そして、今まで知らなかったことを数多く知ることができました。
頭脳明晰
この本を読んで最初に思ったのが、文章力。例えを使ったりしながらクリアな文章でわかりやすく、ユーモアを交えて面白く読み飽きない。失礼ながら、サッカー業界の方が書く文章に思えませんでした。
実際、学歴もすごいですし地頭は半端なさそうですね。
思い切りの良さ
高校を卒業して、日本の大学に進学するという普通のコースを歩まず、海外での勉強を選択します。行動に思い切りがありますね。
大学はイングランドのグリニッジ大学スポーツサイエンスアンドサッカーコーチという専攻だそうです。結果的には主席で卒業だそうです。
卒業後は、ポルトガル語がほぼできない状態でポルトガル語のポルト大学の大学院へ。これも思い切りがいい。
オープンな人柄と器の大きさ
この本を書いて自分のノウハウをオープンにする理由を「最後に」の部分でこう書いています。
最後の最後に、一つだけ皆さんに約束していただきたいことがある。この本で得た知見を是非周りの指導者、仲間、チームメイトたちに話していって欲しい。(中略)よく、聞かれるからだ。「なんでそんなにオープンなんですか?」(中略)例え、日本の指導者がこれを読んで戦術的ピリオダイゼーションと構造化トレーニングをマスターし、私の取り柄がなくなったとしても、それでいい。これを独り占めして隠してクローズドにして得をするのは、きっと私だけだ。だが、オープンにすれば読んだ方々が得をする。クローズドにしてどうするんだ。
この若さで素晴らしいと思いました。視野が広いと言うか、器の大きさを感じました。サッカー界を変える資質を持っている気がします。
浦和レッズに期待すること
彼がこれからの人生をどのように進んでいくか?すごく楽しみです。
勝手に妄想させていただきます。
彼がクラブのコーチや監督を目指すのが当たり前の姿かなと思います。ただ、クラブを経営していく立場、TD(テクニカルディレクター)GM(ゼネラルマネージャー)になってもおかしくはないと思うんです。
今後の浦和というクラブの発展・規模の拡大という意味でも、海外への進出は必須だと思います。そういう意味で、才能と海外経験という素養を持つ彼に、将来TDやGMとなるための英才教育を受けてもらう、浦和はそれを提供するというのはどうでしょうか?
例えば、
・フェイエノールトなど提携しているクラブとの、コーチ育成のためのの交換留学のようなプログラムを作った上で、ヨーロッパ一流のクラブでの実践的なコーチの経験をさせる。
・大学に留学してもらって、経営学を学ばせる。できれば、ヨーロッパの一流クラブの経営方法を学んでほしい。
選手が引退してTDやGMになることが多いですが、クラブ経営という点で外のことを勉強しないでやるのは将来性がないと思います。西野TDのように一旦、外に出て勉強をしてからサッカー界に戻ってくるのならば良いと思いますが。
なので、サッカーの実践も知りつつ、サッカークラブの経営手法も身につけ、浦和というクラブを発展・拡大させていく力量やセンスを持ったTDやGMを若いうちから英才教育すると言うのはいかがでしょうか?
公開練習での見方も変わってくるかなと思いました
この本を読んで、浦和レッズの公開練習の見方が変わって楽しくなりそうだなと思いました。
公開練習は、オフ明けの日で、リカバリーメインの練習メニューになっているのですが、今はなんとなくこういう目的での練習をしているんじゃないかなとか妄想することができそうです。
また、そこで、練習メニューを英語に翻訳して、選手たちに大声で叫んでいる舞輝コーチに会えるのも楽しみになってきました。
サッカー好きの方は是非この本を読んでみてください。ためになりますよ!
[…] 浦和レッズコーチ 林舞輝氏の本【「サッカーとは何か」を読んで】最近、サッカーを深く学びたくなってきました 以前は、浦和の試合を見ていても、チャンスが来てゴールを奪って喜 […]